法医学者・岩瀬博太郎 「やめる覚悟」で研究費250万円をCTに
法医学者の岩瀬博太郎氏が9月30日公開のVAIENCE動画で、研究費250万円を5日間の移動式CT車に全額つぎ込み、日本の法医学に死後CTを持ち込んだ経緯を明かした。
法医学者で千葉大学大学院医学研究院法医学教室教授の岩瀬博太郎氏が、2026年9月30日公開のYouTubeチャンネル「VAIENCE バイエンス」の動画で、日本の法医学に死後CTを持ち込んだ経緯を明かした。教室の研究費250万円を、5日間の移動式CT車の借り上げにすべてつぎ込んだという。
解剖経費は「0円」、役人の一言で勝負に
岩瀬氏が千葉大に教授として着任した当時、大学には解剖経費がまったく支払われていなかった。岩瀬氏は「0円で全部解剖してたんですよね」と振り返る。
国立大学の法人化を控え、費用の支払いを求める要望を出したが、無視された。岩瀬氏は「お役人ってみんな前例主義なんで」と語る。ある役人からは、国民が死因究明に関心がないから財務省が予算をつけるわけがない、と言われたという。
そこで岩瀬氏は、教室に配られる研究費と同額の250万円で移動式CT車を5日間借り、警察の検視に同行した。心不全と診断された遺体の中から脳出血を見つけ、日本の死因の見立てが実態と違うことを示すのが狙いだった。
「やめる覚悟」で臨んだ結果
岩瀬氏は「あの、正直やめる覚悟があったんでね」と打ち明けた。学生に法医学の面白さを教える立場なのに、検査もろくにできない。そんな職場を続ける意味を感じられなくなりつつあったといい、「もうこれでダメなら本当にやめよう覚悟で250万継ぎ込んでましたね」と明かした。
結果、4例か5例で死因が違っていた。これをきっかけにメディアが注目し、その後の時津風部屋の事件を経て、国会でも死因究明制度が議論されるようになった。解剖の費用も支払われるようになり、多少の改善につながったという。
原点は地下鉄サリン事件
国の体制への不信が強まったのは、1995年の地下鉄サリン事件からだ。当時東大の法医学教室にいた岩瀬氏は、事件翌日の被害者の解剖に補助として入った。だが当時の東大の薬物検査装置は「アルコール検査用のガスクロマトグラフィーしかなくって」、何も検出できなかった。
岩瀬氏は「何やってんだろうなとは思いましたね」と明かし、薬物による死について「昔は相当見逃してるはずですね」と言い切った。
指導的な立場で関わった分も含め、これまで9000体ほどの解剖に携わってきた岩瀬氏は、死後CTの限界も指摘する。CTだけで診断できるのは2〜3割にとどまり、法医学では直接の死因だけでなく、その原因までたどる必要がある。岩瀬氏は「CTで脳出血見つけたからおしまいではないんですよね」と語った。